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高松地方裁判所 昭和27年(行)6号 判決

原告 石川末広

被告 丸亀市長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十七年六月三十日高松市内町東亜港湾工業株式会社取締役高松出張所長富家欣吾との間に締結した丸亀競艇場建設のための浚渫護岸工事請負契約は無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

被告は、昭和二十七年六月二十六日、丸亀市議会定例会に於ける議案第一〇七号モーターボート競争場工事施行の件並に同第一〇八号モーターボート競争実施諸施設並に物品購入特別執行承認の件の議案に基き、高松市内町東亜港湾工業株式会社取締役高松出張所長富家欣吾との間に、別紙記載の様な内容の工事請負契約を締結した。

ところが、右契約はその予定価格が一千万円以上であるから、丸亀市契約条例第五条、第四条により、相手方との間に先づ「議会の同意を得た時に契約が成立する」旨の仮契約を締結し、而る後市議会に於て、出席議員の三分の二以上の同意を得て本契約を締結すべきに拘らず、被告はかような手続を践まず、急施を要するものとして、専決処分にて直ちに本契約を締結し、その工事の施行に着手した。従つて被告の右行為は、前記条例第四条、第五条に違反し、地方自治法第九十六条に規定する議会の議決権を侵害するものであり、且つ本件は地方自治法第二百四十三条第二項の出席議員の三分の二以上の者の同意を要する場合であり、市長の専決を許さないものであることは、昭和二十三年九月四日付総理庁官房自治課長通達にも明示せられているところであつて、結局被告の行為は無効たるを免れない。

そこで原告は、昭和二十七年八月十六日、丸亀市監査委員に対し、地方自治法第二百四十三条の二第一項の規定に基き、被告に対する前記違法行為の禁止措置を請求したところ、同年九月一日付を以て、同委員より、被告に於て前記のような本契約を締結した事実がない旨の回答に接したが、これは事実の調査が不充分であつて、とうてい承服することのできないものである。

よつて原告は、丸亀市に於ける一住民として、地方自治法第二百四十三条の二第四項の規定に基き、被告の締結した本件契約の無効確認を求めるため本訴に及ぶと述べ、

被告の主張事実はいづれもこれを争い、

事実は被告が主張するように昭和二十七年六月三十日に仮契約が締結せられたのではなく、直ちに本契約が締結せられていたものであつて、原告より同年八月十八日に監査請求書が提出せられるや、あわてて右六月三十日の契約は仮契約であつたと主張し、仮契約書を同年八月十八日以後に作成して、当初に作成した契約書とすり換えたものである。このことはその契約書に仮契約である旨の記載がなく、又右契約締結後間もなく本件工事に着手していることからしても明らかなところであると述べ、

被告の抗弁に対し、昭和二十七年八月二十日の市議会に於ける議案第一二四号には、被告の主張する仮契約を承認する旨の何等の表示もなく、それは単に新しく契約を締結する旨の承認を求めているに過ぎない議案であるから、追完の効力は発生しないと述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、昭和二十七年六月二十六日の丸亀市議会定例会に於て、議案第一〇七号及び同第一〇八号が議決されたこと並に丸亀市監査委員が、原告主張の頃、原告より被告の行為に対する監査請求を受け、その主張のような回答をしたことはこれを認めるが、被告が直ちに本契約を締結したこと等その余の原告主張事実はすべてこれを争う。尚被告は、同年六月二十六日の市議会で出席議員の三分の二以上の同意を以て議決せられた議案第一〇七号及び同第一〇八号に基き、同年六月三十日、訴外東亜港湾株式会社との間に丸亀競艇場建設工事につき、原告主張の契約と同一内容ではあるが、「議会の同意を得た時契約が成立する」旨の仮契約を締結し、次いで同年八月二十日の市議会に於て、議案第一二四号を以て右仮契約の承認を求め、それは出席議員三分の二以上の同意を得て議決されたものであるから、その間に工事着手の事実があつても、右契約は仮契約成立の時に遡つて有効に成立したものと云うべく、仮りに右のような遡及効がないとしても、事後承認により追完され違法にはならないと述べ、抗弁として、

(一)  仮りに右契約が実質的にみて本契約と同一であり従つて被告の契約締結処分が、市契約条例第四条、第五条、地方自治法第二百四十三条第二項に違反しているとしても、被告は右のように同年八月二十日の市議会に於て特別議決方法によつて承認を得、追完がなされているからその契約は有効である。

もともと本件のような工事請負契約の締結は、私法上の行為であつて、市長の権限でなし得るものであるが、契約価格が一定額を超える場合に限り議会の同意を特別決議により得なければならないという制約がついているだけであつて、本件のようにこの制限を仮りに市長が侵したとしても、それは単に市長の義務違反又は越権行為となるに過ぎず、契約自体は取消し得べきものではあつても無効とはならない。

従つて事後に於て議会の同意により追認をなし得るものである。

(二)  仮りに本件契約が無効であるとしても、右契約に基き既に本件工事は完了し、競艇事業は昭和二十七年十月三十日より開始せられている現状に徴し、今更これを無効とするに及んでは市財政に多大の損害をもたらして市政の混乱を招き、遂には市民の福祉を阻害するに至ることが明らかであるから、行政事件訴訟特例法第十一条並に昭和二十三年最高裁判所規則第二八号の趣旨に鑑み原告の本訴請求は失当として棄却さるべきものであると述べた(立証省略)。

三、理  由

本件工事請負契約の予定価格が三千六百六十万円で一千万円を超える金額であつたこと、昭和二十七年六月二十六日、丸亀市議会定例会に於て、議案第一〇七号及び第一〇八号が議決されたこと並に原告が同年八月十六日付でその主張のような監査請求をし同年九月一日付を以てその主張のような監査回答のあつたことはいづれも当事者間に争がない。

そこで先づ丸亀市の工事請負契約の締結手続がどういう風に定められているかについて判断する。

成立に争のない甲第八号証によれば、丸亀市契約条例(昭和二十六年三月一日条例第一一七号)には、丸亀市が予定価格一千万円以上の契約を締結するときは、市長は、先づ相手方との間に、「議会の同意を得たときに契約が成立する」旨の仮契約を締結し、同旨記載の仮契約書を相手方に交付した上この契約に関する案件を次の議会に提出しなければならないこと並に右議会に於ては出席議員の三分の二以上の同意を得なければならない旨を定めていることが明らかである。即ちこれによれば市が予定価格一千万円以上の契約を締結する際は、当初その契約の発効を市議会の承認時にかからしめる所謂仮契約を締結した上、事後に於て、所謂特別決議の方法による議会の同意を得なければならず、又この場合市長が急施を要するものがあるとして、議会の議決を経ないで直ちに本契約を締結することを許さない趣旨であることが明らかである。

ところで被告が、同年六月三十日、訴外東亜港湾工業株式会社との間に、別紙記載の様な内容の工事請負契約を締結したことは当事者間に争がない。

そこで被告の締結した右契約が、前記丸亀市契約条例に所謂仮契約であつたかどうかについて判断する。

成立に争のない甲第二乃至第六号証、第八、九号証、第十号証の一、二並に証人宮武稠、藤塚英夫、竹森新夫、香川香の各証言並に原告本人訊問の結果を綜合すれば、次の様な事実が認定される。即ち、丸亀競艇場設置については、同年四月下旬頃海運局より認可があつたが、その後丸亀市当局に於ては右認可取消の懸念並に電力事情等を考慮し、急拠右設置工事を進める方針を樹て、競艇の実施予定期日を同年十月上旬と定め、それ迄の短期間内に右工事を完成させるべく異常な関心を示すに至つたこと、而して右目標を達成するためには、丸亀市契約条例に定められた正規の手続を一々践んでいてはとうてい右十月の競艇開催に間に合いそうになく、結局急施を要するものとして市長の専決処分に付し適宜の処置をとる意向を有していたこと、よつて市議会に対する関係では、同年六月二十六日の定例議会及び同月二十八日の全員協議会に於て右についての諒解を求めてその承認を得、爾後に於ける市議会の承認議決の獲得が確実視されるに至つたので、同月三十日、丸亀市役所内に於て、本件工事の着手時期を右契約締結の翌日である同年七月一日と定め、別紙記載の様な内容の本契約を訴外東亜港湾工業株式会社との間に締結し、間もなくその工事に着手したことが認められる。尤もこの点に関し、成立に争のない乙第一号証によれば、被告が仮契約書をも作成している事実が認められるけれども、これを以てするも前記認定には何等の影響を及ぼさず、又証人宮武進、今田竹雄、上田正至、田尾正男、香川香の各証言中前記認定に反する部分は、前記各証拠に照してにわかに措信し難いところであり、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

以上認定したところによれば、被告は結局、原告の主張するように、その契約締結手続に於て、前記丸亀市契約条例並に地方自治法の規定に反し、その専決処分により直ちに何等の留保条件をもつけない所謂本契約を締結するに至つたことが明らかである。

そこで議会の事後承認により右契約がその当初に遡つて有効である旨の被告の抗弁(一)について判断する。

およそ市の締結する工事請負契約は、私法上の行為であつて、その契約締結は本来市長の権限に属する事項であり、市長単独でなし得るものと云うべきであるが、本件のようにその価格が大きく一定の額を超える場合に限り、その処分の公正並に確実性を担保するため議会の特別決議を要する旨の制限が付せられているものと解するのが相当である。(このことは成立に争のない甲第八号証の丸亀市契約条例によつても明らかなところである。)従つて予め仮契約を締結することなく、直ちに専決処分により本契約を締結するに至つた被告の処置は、その手続を誤つたものではあるが、云わば市長の越権行為たるに過ぎず、締結された契約自体が当然無効になるとは考えられない。

而して成立に争のない乙第五、六号証、甲第十号証の一、二、証人今田竹雄、香川香の各証言によれば、同年八月二十日の市議会に於ける議案第一二四号は、明らかに右六月三十日に締結せられた本件契約の承認議案であり、且つそれが出席議員の三分の二以上の同意を得て議決せられたことが明らかであるから、被告が専決処分により締結した本件契約は、これにより適法に追認せられたものと云うべく、従つて本件契約はその締結の当初に遡つて有効であると解せられる。

よつてこの点に関する被告の抗弁はその理由ありと云うべく、本件契約の無効確認を求める原告の本訴請求は、爾余の判断をまつまでもなく失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 横江文幹 松永恒雄 土橋忠一)

(別紙省略)

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